お侍様 小劇場 extra

    “仔猫のナイショvv” 〜寵猫抄より
 


この頃はわネ、おにゅわに出ゆと、
梅の蕾が いいによいしゅるの。
薄緑のやーらかい枝が、風が当たってふりふりしてて。
お、なんだ? って。
なにすんの? って。
お手々上げて えいえいって、
ちょいちょいって構ってたらば、
シチが“めぇよ”って抱っこしに来ゆの。
じんじょげの茂みも、いーによいしゅるのよ?
甘くて、いつまででも くんすんしてたい、いいによいvv
でもって、シチもね、
甘い甘いのいいによいがすんのvv
お炬燵のお部屋の窓のとこ、
陽なたでお膝に乗っけてもらって、
いい子いい子って撫でてくりゅたり、
髪の毛、梳
(と)いてくりゅりゅときとか。
はい出来たって、いい子だったねって、
こっちお向きってして、
ぎゅうって抱っこさえるとね。
はちゅみちゅみたいな、(蜂蜜?)
わたーめみたいな、(綿飴?)
甘いまい いーによいがすんのvv
そのまま、うとうとネムネムしゅゆとね?
ほかほかのお膝だもんだから。
いーによいも しゅるもんだから。
雲さんに乗ってりゅ夢とか 見んのよ?
ホントよ? ホントにvv

 でもね、一番いーによいがすんのはね?
 シュマダが嬉しいこと ゆったときなのよvv

今日は朝からお出掛けしてゆ シュマダなんだけど、
あ………

  タクシの音がした途端、お顔が上がってドッキンとして。
  それかや、あのね……?




     ◇◇◇


基本は執筆の仕事をしておいででも、
取材や講演、出版記念の会合などなど、
家の外へまで“おいで”をと求められる場合も多々ある、
人気作家の島田せんせえであり。
今日もどこやらホテルでの昼食歓談会へと招かれておいで。
主催したのは馴染みの深い出版社で、
一堂に会した方々の中に、
抽選で選ばれたという読者の方々も交えてという形の、
とある代表作品の連載何周年記念だかを祝った、
ミニ・パーティーだったそうであり。

 「お帰りなさいませ。」

本来の礼儀や作法を持ち出せば、随分と型破りなお行儀ながら。
陽だまりの中、ぬくぬくと暖まってた仔猫を抱えたまんまで、
玄関までをお出迎えにと出てゆけば、

 「ああ、今 帰った。」

まだまだいま少し気候が安定しないのでと、
冬のコートを着てった姿のそのまま、
律義なお言葉、返してくださる御主の視線は。
まずはとお留守番を任されていた秘書殿へと留まり。
気に入りの青い双眸の甘い潤みを堪能してのそれから、

 「にあぁんvv」
 「おお久蔵。戻ったぞ?」

ふわふかな金の綿毛の皇子にも、勿論 眸を留め、
お顔を寄せてのお声をかけて。
そのままほれおいでと伸ばされた手へと応じてのこと、
七郎次もまた、勘兵衛へその腕スルリと伸ばして見せる。
彼が提げてった小さめのバッグを受け取るためであり、
それともう1つ、増えていた荷物が、

 「にゃあ・みゅvv」

仔猫さんと入れ替わりで七郎次の手へと渡ってったそれ、
レースのクレープ紙とセロファンとでくるまれた、
花束をひとかかえほど、持ち帰っていたせんせいで。

 「これはまた、春めいた色合いですねぇ。」

仔猫さんの潤んだ赤い瞳が、追っかけるようにと据えられていたのへ、
そちらもいち早く気づいたおっ母様。
抱っこされた御主の懐ろにて後足で立ち上がりつつ、
肩越しに振り向いてまで見やる坊やだったのへ。
ほれと見えやすいように傾けてくれつつ、

 「ファンの方々からですか?」
 「一応はそう言って渡されたが。」

用意したのは編集部かも知れぬと、
あっさり言い放った売れっ子せんせえ。

  何でそう思うのですか?
  カードの類が添えられておらぬ。
  あ…。

あったとしても編集部の手配でということもあるのだろうが、
わざわざ応募して来て、
抽選で選ばれたという段取りで顔を合わせた読者の方々。
芸能人の卵が売り出し目的で呼ばれて同席しているのとは、
多少なりとも思い入れも違おうから、
そんなお人が用意したものなんなら、
カードの類が無いというのは少々不自然さね…なんて。

 「……勘兵衛様、大した自信ですねぇ。」
 「なんの、慧眼と言うてくれぬか。」

お互いに“ふっふっふvv”なんて
芝居がかった笑いようをして見せ合ってから。
さぁさお上がりくださいましと、
促す所作の中、優しい手際で花束を抱いた女房殿だったのへ、

 「……。」

何を感じたものなやら、
精悍なお顔へ、ほんの一刷毛ほどの淡い笑みを浮かべた勘兵衛であり。
スィートピーやらフリージアやら、
淡色の春の花々抱えた恋女房の佇まいへと、

 「…お主に勝る花は無しだの。」
 「な…っ。////////」

いきなり何を仰せかと真っ赤になって、
あまりの不意打ちへ
慌てたように背中を向けた秘書殿ではあったれど。

 “…あれれぇ?”

小さな仔猫様。
間近になった壮年殿のスーツの匂いよりも、
もっと高まる甘い香りへ気がついて、
濡れた小鼻をひくりと震わせた。

 “こりは、
  シチがシュマダへ“好き好き”ってなってゆ によいだvv”

お花や はちむちゅよりずっと、
甘くって やあらかくって、
ドキドキすゆ によいだと。
どんなに取り繕っての“知りませぬ”なんてお顔をしても、
仔猫様にはお見通しなようでございまし。


  ほら、ここにも春が1つ…。




  〜Fine〜  2010.03.07.


  *何てことはないお話です、すいません。
   勘兵衛様をどれほど好きかなんて、仔猫様にはとうにお見通し。
   どんなに秘しても無駄ですよ、ということで。

めーるふぉーむvv ご感想は ここだにゃvv

ご感想はこちらvv


戻る